18-04 水の青-エピローグ

「お願いがあるの」
ブランはちらりとダイを振り向いた。ダイはそれを見てうなずいてみせた。
「わたしたち、あと80年しないうちに全員いなくなるの」
カインは彼女の顔を無言で見つめた。
「この子を……」
ブランは『ケイナ』に目をやった。
「ケイナをこの星に置いてやって」
カインは思わずユージーの顔を見た。ユージーもびっくりしているようだ。
「あの機は一度きりの往復しかできないの。置いていくなら今しかない」
「どうして……」
つぶやくカインを見てブランは頬を震わせた。
「ケイナとセレスの願いは、できればこの星にいることだったの。ふたりは何も言わなかったけれど、わたしたちには痛いほど分かってた」
ブランはこぼれそうになった涙を慌てて指でぬぐった。
「みんなそうよ…… この星で生きていきたかった。でも、あたしたちはだめなの。帰れない。だけど、この子はもう星に負担をかけないから」
カインはかつてのケイナにそっくりな少年に目をやった。
「彼には『グリーン・アイズ』がもうないの」
ブランは言った。
「皮肉な話よね。『グリーン・アイズ』の血を引くふたりが普通に子供を生んだら、『グリーン・アイズ』ではなくなるのよ。遺伝子操作じゃなくて、普通に子供を産んだら。こんなこと…… なんでもっと早く……」
「彼にはもう『グリーン・アイズ』の遺伝子がないんです」
泣き出してしまったブランの代わりにダイが口を開いた。
「当たり前に、普通の…… 人間です。ぼくらと同じ船に乗る理由がない」
「今…… いくつになるの?」
震える声でカインは『ケイナ』に尋ねた。
「18です」
彼は答えた。アキラと同じ歳だ。ユージーに目を向けると、彼は小さく息を吐いた。
「こっちから連れて行くなと言うところだった」
ユージーは妻のルージュの顔を見た。ルージュは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐにうなずいた。
「そうね。これで父も納得するんじゃない?」
そして娘のサナを見た。
「お兄さんが欲しかったんでしょ? ユイが羨ましいって言ってたじゃない?」
その言葉にアキラがサナに目を向けるとサナは真っ赤になった。
「うちがいいわ」
ユイが言った。
「ねえ、お父さん、うちに来てもらって」
彼女は『ケイナ』に走り寄ると彼の手をとった。サナの顔に不安が浮かぶ。
「お任せしていいですか」
ダイの言葉にカインはうなずいた。
「もちろんです」
「なんだかひと悶着起きそうな気もするけど?」
アキラが睨み合っているサナとユイをちらりと見て笑って言った。

 ブランとダイはひとりひとりにノマドのキスをした。
『ケイナ』はかなり長い間、ブランとダイを抱きしめていた。
歳は離れているが、3人はおそらく兄弟同然に育ってきただろう。かつてのケイナがリアやトリと過ごしたように。
「『ノマド』には別れの言葉がないの」
ブランは言った。
「本当は見送りもしないの。また会えると思うから。今回は一度きりの例外よ」
泣きながら笑みを見せて彼女はそう言うとダイと一緒に背を向けた。
ふたりが乗り込み飛び立って機影が見えなくなるまで、全員がずっと砂浜でそれを見送った。
これで本当にさようならになる。
ケイナ、セレス、アシュア、リア。今までありがとう。
最後に大きな贈り物をくれた。
カインはケイナそっくりの少年が空を見つめている横顔を見て思った。