14-06 Double

 ダフルの葬儀のあと、墓地に向かう前に葬儀の列がリィのビルの前を通るからとユージーが連絡をしてくれた。リィ・カンパニーからは誰も参列できなかったので気を使ってくれたのだろう。
知らされた時間にビルのエントランスまで降り、軍の経験のあるカイン、アシュア、ケイナは軍式に敬礼をしてダフルの乗った黒い大きなプラニカを見送った。
ケイナはまだ憔悴しきった表情だった。
ダフルの死はケイナだけでなく、ブランやダイにとっても衝撃であるはずだった。
しかし、ブランもダイも戻ってきた直後こそ興奮状態だったが夜中に飛び起きたり泣いたりすることはなかった。
ケイナもカンパニーに戻ったあと眠っていた。
ダイはブランが手を繋いでいたからケイナは大丈夫なのだと言った。
『ノマド』の夢見たちが彼に代わって夜の間は苦しみを引き受けたのだという。
「ぼくらのことも、夜になると夢見たちがずっと頭を撫でてくれるんだ…… そしたら眠くなる」
アシュアとリアはそれを聞いて顔を見合わせた。
しかしカインはそのあともケイナが自分の手を見つめてじっと考え込んでいる姿を何度も見た。
ブランとダイはどこを見るでもなくぼんやりとして座り込んでいるときがあるらしい。
ほんの一瞬前まで生きて話していた人がふいにいなくなってしまう喪失感から立ち直るのには長い時間が必要になる。カインはそのことが痛いほど分かっていた。
たぶんユージーもアシュアもリアも同じだろう。癒せるのは時間だけだ。
誰にでも平等に過ぎる時間が彼らの傷に少しずつ薄い膜を作っていく。その傷は決して治りきることはないだろうが、剥きだしになったままではないぶん、いつかは傷を治すエネルギーを自分自身の時間を生きていくエネルギーに変えていくことができる。
きっとそうだ。そうであって欲しかった。
カインたちは祈るような気持ちで3人を見守っていた。

 ケイナはカンパニーを出てからの数日間を極端に少ない言葉ではあったがセレスと子供たち以外の全員に話した。
ジェ二ファに会ってブランたちのコミュニティを教えてもらったこと、エリドに会ってあれがハルド・クレイであることの確証を得たこと。
ハルド・クレイに人工パーツをつけるのを提案したのは『ノマド』であったこと、そのためにエストランド・カートとサン・バッカードが不穏な計画を企てるきっかけとなってしまったこと。
『ノマド』はハルドを取り戻すことに失敗をしたこと。身の内にハルド・クレイを留めたままのあいつを葬るしか道はないこと……
「ユージーにはちゃんと話しをした?」
カインが尋ねるとケイナはかぶりを振った。
「あのときは…… 話せなかった」
「じゃあ、彼にもきちんと報告をしておいたほうがいい。きみはカートとして動いたのだから」
カインがそう言うと、ケイナは無言でうなずいた。
カインはケイナがダフルとセレスのことについては一切話さなかったことに気づいていたが、そのまま何も問わずにいることにした。
ダフルについては彼にはまだ触れられたくないことだろうし、セレスについても彼女の記憶を取り戻す術が見つかったのであればケイナは行動に移すはずだった。
それがないということは…… 分からなかったということだ。
ユージーは相当きつくケイナを突っぱねてリィに行かせたからとカインに話していた。
彼の立場としてはそうせざるをえなかっただろう。
「クルーレは?」
カインが尋ねると、ユージーは一瞬口を引き結んだ。
「葬儀が終わったら任務に戻ると言っていた」
カインはそれを聞いて目を伏せた。あの人ならそうするだろうとは思っていたが、次に彼と顔を合わせたときにかける言葉を見つけられないと思った。
「ユージー……」
カインはしばらく沈黙したあと口を開いた。ユージーの黒い瞳がこちらを向く。
「ぼくは、あなたの言うように、策略家じゃありません」
ユージーの表情がかすかに訝しそうになるのを捉えながら、カインは言葉を続けた。
「あなたの考えていることも、ずっとあとになってからやっと分かることが多い。今回もたぶんあなたには何か考えがあってケイナをこちらに戻したんだと思う。でも、ぼくは、あなたとは対等でありたい。ケイナをこちらに預かるのは、あなたの意思だからじゃない。ぼくの意思です」
ユージーはカインのきっぱりとした口調にかすかに目を伏せてうなずいた。
「でも、ぼくは…… ケイナにとってあなたの代わりはできません」
思いがけないカインの言葉にユージーは少しびっくりしたような表情でこちらを見た。
「『A・Jオフィス』のことはそちらの管轄内だ。でも、『ノマド』の動きについては、こちらにも情報をください ……彼らに対してはリィにも責任がある」
カインはそう言ったあとユージーの返事を待たずに通信を切り、椅子の背にもたれかかった。
ぼくらにケイナの『兄』の代わりはできない。
ユージーに友人の代わりができないように。
クルーレにとって、息子の命はひとつであったように。
誰かにとって、誰かの代わりはできない。
そしてハルド・クレイの命もひとつしかない。
無くしたくなかった命、無くさなければならない命。こんな理不尽なことがあっていいものか。
ぼくらはこれから途方もなく辛い思いをすることになるだろう。
カインは口を引き結んで、何も映っていないモニターを見つめ続けた。