12-04 Truth

 ひとしきり吐いたあと、ケイナはクルーレたちとともに監視用の部屋に戻った。
バッカードの身代わりになっていた男はノブとヨハンが連行していった。
「住民登録の詐称罪だな。一緒に青少年の無許可労役に関する摘発もできそうだが」
クルーレはケイナに言った。
「本人だったらどうする気だったんだ」
ブーツを自分のものに履きかえるケイナにクルーレが言うと、ケイナは肩をすくめた。
「最初におれを見たときの反応で違うってわかってた」
「バッカードは近眼だったよ」
ダフルが言ったが、ケイナは彼をちらりと見てかぶりを振り無言で借りていたジャケットをダフルに渡した。
ジャケットを受け取ってダフルは父親を見上げた。
クルーレは何も言わなかった。
どうしてこのわずか18歳の少年の無謀な行いを許してしまったのだろう。
いつもの自分なら部下にでもこんな行動は許さないだろう。
クルーレは自分でも分からなかった。
ほとんど何の経験も積んでいないというのに、この子は人を自分に従わせる目を持っている。それが少し不気味だった。
ケイナはクルーレの視線を浴びながら顔を不機嫌そうに逸らせた。
「言葉としての確証が欲しかっただけだ。『たぶん』な感覚だけじゃ説得できない。手荒いまねはしたくなかったけど……」
「とりあえずリィ社長に報告をしなければならない。一緒に戻ってくれるね?」
クルーレが言うと、ケイナは目を逸らせたまま答えなかった。
「戻らないわけにはいかないぞ、ケイナ」
諭すように言うクルーレの顔にケイナは目を向けた。
「『ノマド』を探す」
クルーレがめずらしくあんぐりと口を開けた。ケイナの言葉がよほど突拍子もないことだったのだろう。
「アシュアのコミュニティを探す。彼らはきっと何か知ってる」
クルーレは勘弁してくれというように首を振った。
「十分無謀なことはやっただろう? わたしが行けと言えるとでも思っているのか。それに『ノマド』にコンタクトを取ることが難しいことはきみも知っているだろう」
「知ってるけど、道がないわけじゃない」
ケイナは言い募った。
「バッカードは偽者だった。ハルドさんも顔を変えている。遺体はきっと別の人間だ。でも、顔を変えて全く別人の生活をさせることを実行しているのは『A・Jオフィス』なんだ。『ノマド』は絶対何か知ってる」
ダフルが不安そうに父親を見た。彼は何の話かさっぱり分かってはいなかったが、ケイナが話していることが尋常ではないことは感じたようだ。
「敵なのか味方なのかは分からない。でも、行く。アシュアの子供たちもコミュニティにいるんだ」
「もし彼らが味方ではなかったらどうするんだ」
クルーレが言うと、ケイナは首を振った。
「分からない。でも敵じゃないと思ってる」
「なぜ」
また『勘』か? クルーレは思わず顔をしかめた。
「彼らはリアを置いていった。リアは表だった能力はないけど、夢見の血を引いてる。それにダイとブランの母親だ。アシュアは全ての通信機を没収されてしまったけれど、リアがいることで『ノマド』はアシュアとリアを守っている」
クルーレは分からないというように首を振った。彼にとって夢見のことは理解しがたかった。
「何をどう言ってもわたしにはきみを行かせることはできない。ましてやひとりで。カート社長もリィ社長も反対するだろう」
「あ、じゃあ、ぼくが一緒に」
いきなりダフルが言い出したので、クルーレもケイナも彼に目を向けた。
「ここの見張りも今日で終わりでしょう? ぼくも明日からは別の任務になるわけだし」
「ばかなことを言うな! おまえは下級兵だぞ。おまえにケイナの護衛が務まると思っているのか」
クルーレが目を剥いた。
「プランニングと操縦だけは成績が良かったよ」
ダフルは目を輝かせていた。
「あ、あと捜査も。人探しなら自信あります」
クルーレは顔をしかめて額に手を当てたが、ダフルは嬉しそうにケイナの横に並んだ。
「一番いいのは、お父さんの息子ということだ。それなら社長を説得できるでしょう?」
ケイナは横に立つ彼に目を向けた。さっきちらりと見た彼の真剣な顔が思い出された。通信機を投げてよこしたのも瞬時の的確な判断だった。
この人は気弱そうに見えてかなり頭の回転が速いのかもしれない、と思ったのだ。
「お父さん、命令を」
ダフルは急かすようにクルーレを見たが、彼はまだ迷っているようだった。
ケイナは踵を返した。迷っている時間が惜しかった。それを見てクルーレは仕方なくうなずいた。
「必ず連絡を入れるんだ。わたしのところに直に」
「分かりました!」
ダフルは嬉しくてたまらないというように敬礼をしてケイナのあとを追った。