08-09 ブラン

「カイン、もしかしておれと同じことさせられてる?」
アシュアの言葉にカインは小さくうなずいた。
「ん…… まあ…… 実際手を繋いでいるのはぼくじゃないけど」
「カインさんの髪をもらったんだってば!」
ブランが再び口を挟んだ。
「だめだ、そんなの!」
アシュアは画面の向こうで怒鳴った。
「だめ! だめだ! そんなことしたら、カインは死んじまうぞ!」
「えー、だって、長老が……」
「長老が言ったってだめ! おれが許さねえ! だめだぞ!」
アシュアはブランを睨みつけた。
「どれだけ大変か分かってるのか?! おれでもぶっ倒れそうになってんだぞ! カインは絶対だめだからな! やめろよ!」
「分かったよ……」
ブランは渋々答えた。
カインは内心ほっとした。アシュアが言えばブランも聞き入れてくれるだろう。
「カインと話をするから、おまえ、あっちに行ってろ」
アシュアの声を聞いて、ブランはふてくされてモニターの前から離れていった。
「なんか、えらいことになってるみたいで、悪かったな」
アシュアはカインの顔を気遣わしげに見た。
「リアを呼んだのはぼくなんだ。セレスのそばに誰かよく知っている人がついていたほうがいいと言われたから……」
そしてブランをちらりと見た。
「ブランがついてきたのは予定外だったけれど」
アシュアはため息をついた。
「今、どこなの」
カインが尋ねると、アシュアは初めて気づいたような顔をした。
「そう、それで連絡したんだ。『アライド』は飛び立ったよ。遠回りして地球に向かうらしい。着くのは6時間後だ」
「良かった……」
カインは息を吐いた。
「ノースドームの近くの軍用ポートに臨時着陸すると言われた。手続きもなしに飛んでるし星間機用の空港じゃないけど、着くまでになんとかするそうだ。メインのエアポートはまだごちゃごちゃらしい…… だからそっちに着くのは明日の夕方かな。とりあえずケイナも一緒に行くよ」
「ケイナは?」
「いるよ。一緒に乗ってる」
アシュアはちらりと後ろを振り向いた。
「飛び立ってからずーっと眠ってるんだ。さっき何回か起こしてみたんだけど、全然目ぇ覚まさなくて」
「そうか」
カインは少しがっかりしながら答えた。
「久しぶりにサバイバルな生活したから疲れてんだと思うよ。手足を動かす練習もなしにいきなりだったし」
アシュアは慰めるように言った。
「いいよ。それより、リアを呼ぼうか? 彼女は別の部屋なんだ」
カインが言うと、アシュアは首を振った。
「いや、おれもいいよ。どうせすぐに会えるんだし」
そして顔をしかめた。
「ところで、なんで、ブランがそこにいるの?」
「あ…… うん、ちょっといろいろあって……」
カインは言葉を濁した。
「ダイは?」
「ダイはコミュニティに残ってるそうだ」
アシュアはため息をついた。
「あっちにも連絡しとくよ。手を繋ぐことだけはやめておけよ。ほんとに死んじまうぞ」
カインはうなずいた。
「帰ったらまた話す。こっちでもいろいろあったんだ」
「そうだろうね……」
アシュアの顔には少し疲労の色が浮かんでいた。ケイナが眠って起きないくらいなので、アシュアも相当疲れているのだろう。
「ブラン、通信切るよ。いいか?」
カインが声をかけると、ブランは再び駆け寄ってきた。
「お父さん、いつ帰って来るの?」
ブランは画面の中のアシュアに言った。
「明日だよ」
「早く戻ったほうがいいよ」
「そりゃ、ま、おれだってそうしたいけど」
「青い目のお兄ちゃん、いるの?」
「ケイナのこと?」
アシュアは怪訝な顔をした。
「いるよ。寝てるけど」
「そのお兄ちゃんでないと、勝てないってダイが言ってる」
カインはブランの言葉を聞いて目を細めた。
「なんのこと?」
アシュアはブランの顔を見つめた。
「勝てないって。青い目のお兄ちゃんに」
アシュアとカインは顔を見合わせた。
「ブラン、何のことを言ってるの?」
カインは彼女の肩を掴んだ。ブランはカインの顔を見た。
「青い目のお兄ちゃんのことよ?」
何を分かりきったことを、という表情だ。
「勝てないって、どういうこと?」
「どういうことって……?」
カインは眉をひそめた。聞き方を変えないとブランには分からない。
「ええと…… 誰が、誰に勝てないの?」。
「カインさんが、青い目のお兄ちゃんに」
カインは呆気にとられて彼女の顔を見つめた。
「ちょっと待て、ブラン、青い目のお兄ちゃんってケイナのことか?」
アシュアが口を挟むと、ブランは父親に顔を向けた。
「ケイナって?」
「ええと、おまえが青い目のお兄ちゃんって言ってたやつだよ」
アシュア、違う、余計ややこしくなってしまう。カインは顔をしかめた。
カインはブランを自分のほうに向かせた。
「ブラン、よく聞いて。ぼくが勝てないのは、アシュアと一緒に乗ってる人なの?」
「違うってば。青い目のお兄ちゃんって言ったじゃない」
ブランは口を尖らせた。
「青い目のお兄ちゃんって、誰?」
「知らない。ダイがそう言うんだもん。青い目のお兄ちゃんでないと、青い目のお兄ちゃんに勝てないって言ってるんだもん」
カインは眉をひそめた。エアポートで会ったケイナによく似た少年……。彼は実在する。そしてまだ自分を狙っている。ブランの話はそうとしか思えなかった。
「カイン、できるだけ早く戻るよ」
アシュアは言った。カインが考えたことと同じことを思ったらしい。
「ケイナにも話をしとく。おまえ何か身を守るもの、持ってるのか?」
カインはうなずいた。
「カートが軍用の銃を用意してくれた」
アシュアは混乱したように額を押さえた。
「とにかくできるだけ早く戻るよ。くれぐれも気をつけてな」
「アシュアも」
アシュアは画面から姿を消した。
「ゲーム、していい?」
ブランはカインに無邪気に尋ねた。カインがうなずくと、彼女は嬉しそうにモニターの前に走って行った。
赤い火がちらりと頭の中に浮かんで、消えたのを感じた。