07-03 ナナ

  目的の場所まで行き、岩陰に身を潜めるとケイナはナナの顔を見た。
「ナナ。おれに銃を渡して」
「だめよ。あなたに武器は持たせるなって言われてるわ」
ナナは即座に首を振った。
「おれ、利き腕は左だ。義手のほうを使うんじゃない」
「そういうのは問題じゃないの」
「あんたの腕じゃ無理だ」
それを聞いて、ナナの顔が険しくなった。
「なんでそんなこと分かるのよ」
「護身用に訓練受けただけなんだろ。おれとアシュアは軍の訓練を受けてる」
ナナはアシュアの顔を見上げた。アシュアは肩をすくめてみせた。
「ただのショックガンよ。そんなに威力はないわ」
ケイナは無言で彼女の顔を見つめていた。ナナは思わず彼の顔から目を逸らせた。目のガードを外したことを後悔した。
(なんて怖い目なの)
頭の中を探るかのような鋭い目。とても真正面から見られない。
彼女は渋々自分の小さなバックの中から銃を取り出した。
「当たったとしても、せいぜい一時間程度気絶するだけだわ。このままやり過ごしたほうが賢明よ」
「やり過ごしたってまた戻ってくるぜ。おれたちがここを通るってこと知ってるんじゃないか?」
アシュアが口を出した。ナナは困ったような顔をした。
「あんたは迂回路を探して。地図持ってるんだろ」
ケイナは銃を受け取ると言った。
「持ってるけど……」
ナナは口を尖らせた。
「そんな詳しい地図じゃないわよ。こんなことする予定じゃなかったし……」
「それでもいいよ。せめて平野じゃなくて岩場探して」
ケイナはあたりの地面に目を走らせると、子供の握りこぶしほどの石を拾った。
「何するの?」
ナナは目を細めた。
「やめてよ?」
ケイナはそれを無視してアシュアを見上げた。
「アシュア、その銃でどれくらいの距離、いける?」
アシュアは小首をかしげた。
「最近あんましこういうのやってないからなあ…… せいぜい2、30メートルってとこかな」
「じゃあ、20メートルで停めるから、中のやつが出てきたら撃って。たぶんふたりいる。片方は引き受けるから」
「ふたり?」
ナナはケイナの顔を怪訝そうに見た。
「なんでそんなこと分かるの?」
ケイナは彼女に目を向けて、その顔をついと彼女に近づけた。ナナはびっくりして身を反らせた。
「あなたたちがくれた、目のおかげ」
ナナは顔をこわばらせた。
ふざけないでよ。そんなことまで見えるわけがないじゃない。
そう言いたかったが声が出なかった。視線の先がもろに分かるケイナがこんなに恐ろしく思えるとは想像もしていなかった。
15分ほどたった頃、ケイナたちが乗ってきたのと同じタイプの車が地面すれすれに走ってくるのがみえた。ナナは必死になって岩陰で紙の地図を睨みつけていたが、ケイナが身をかがめながら移動したので顔をあげた。右手に石を握っている。
「ケイナ?」
ナナは小さな声をあげた。
「やめてよ?」
ケイナは無言だった。
「ケイナ!」
ナナが叫んだときには、目の前を通り過ぎていったキューブに向かってケイナは石を投げつけていた。ナナとアシュアはその石がキューブの下のほうを貫いて勢いよく向こうまで飛んでいくのを見た。
四角い車体が一瞬上に反ったかと思うと、前のめりになって地面にどすりと落ちた。
なに? というように顔を出した男をアシュアは撃った。次にびっくりしたように出て来た男をケイナが撃った。
ふたりが岩陰からキューブに向かって歩き出すのを見ても、ナナは動けなかった。
しばらくしてようやく彼女は慌てて駆け寄った。
「見事に穴が開いてるなあ」
アシュアはケイナの投げた石が開けたキューブの穴を覗き込んでつぶやいた。
車体の脇に小さなマークがついている。『ゼロ・ダリ』のマークだ。人間の目を模したような形であまり趣味が良くない。
「なんで……」
ナナはかぶりを振った。倒れている男たちには見覚えがなかった。
「行こう」
ナナは戻ろうとするケイナを追って詰め寄った。
「あれほど妙な使い方しないでって言ったのに……」
ケイナは無言だった。ナナは小走りにケイナを追いかけた。
「ケイナ、使えば使うほど腕も足もあなたを覚えていくの。あなたがそういう使い方をすればそのことを覚えてしまうのよ。兵器はいやなんでしょう……?」
「いやだよ」
ケイナは足を止めてナナを振り向いた。またこの目だ。ナナは身構えた。
「だったら最初からもっと性能の低いものをつければいいじゃないか」
ケイナは言った。
「なんで、こんなのつけたんだよ」
ナナは目を伏せた。
「……別にあんたの責任じゃないけど」
ケイナはそう言うと顔をそらせて歩き出した。アシュアは俯いたまま立ち尽くすナナに近づいた。
「行こう」
アシュアは言った。
「あんたの力がなきゃ、おれたち目的地まで行けないし」
「着くまでずーっとこんなふうに責められ続けるのかしら」
ナナはつぶやいた。
「ケイナはあんたを責めるつもりはないんだと思うよ」
アシュアはため息をついた。
「あいつ、昔からああいうものの言い方しかできないんだ。許してやってよ」
ナナはアシュアの顔を少し睨みつけると、顔を背けて歩き出した。