06-04 脱出

 カインは自分の部屋に入るなり壁のモニターを開いた。
「チェック、セキュリティ!」
そう言いながらデスクの前に座った。
「こりゃ…… どうなってんだ……」
一緒に入ってきたヨクが壁のモニターを見てつぶやいた。
リィの倉庫がある主要なエアポートのほとんどに警戒体制の表示が出ている。クルーレに連絡をとろうとカインがキィを叩く前に通信が入った。急いで回路を開く。
「リィ社長」
クルーレだった。
「何があったんです」
「まだパニック状態だ」
クルーレの顔にわずかに焦りの表情が見てとれた。
「主要なエアポートの大部分で爆発が起きたらしい。管制棟は大丈夫ですが、リィの倉庫に被害があります。どうも、カートとリィが中心に狙われたみたいだ。こちらも10ほど倉庫が爆破された」
カインがヨクに目をやると、ヨクは急いで部屋を出て行った。
「メインの滑走路がやられたエアポートが30ある。ほとんどが星間移動用のエアポートだ。今のところ無傷なのはノース・ドームの5つのエアポートだけです」
ノース・ドーム…… 
カインは考え込んだ。リィはここのエアポートは利用していない。
「何が原因なんです?」
尋ねるとクルーレはかぶりを振った。
「ミストラルの社長が狙撃されて以来、小さな過激派グループがいくつかいざこざを起こしていて、今回もその可能性が高いようだが、はっきりしたことは分からない。こんなリアルタイムに統率のとれた行動を起こせる組織ではないはずなんでね。 ……どっちにしても今は空からの運輸は全てストップになった。着陸が必要な機を安全な場所に誘導することで手一杯になっている。リィの関連の空輸も申し訳ないがストップさせるか、誘導するかになりますよ」
カインは口元にこぶしを当てた。動揺している。なんとか気持ちを落ち着かせなければならない。
「そちらの判断に任せます。今ヨクが詳細を調べに行っていますから、今から飛ぶスケジュールのものはストップさせます」
カインの言葉にクルーレはうなずいた。
「頼みます」
「クルーレさん」
彼がそのまま通信を切りそうになったので、カインは慌てて言った。
「『ゼロ・ダリ』から何か連絡がありましたか」
「いや?」
クルーレがかすかに眉をひそめた。
「こんなときに申し訳ないのですが、ケイナが地球に戻りたいという意思表示をしました。その手続きをお願いしようと思っていたんです」
「無理だな」
クルーレは即座に答えた。
「星間用のエアポートがほとんど被害を受けている。まだ明確なことは分からないが、たぶん一週間は迎えに行くこともできないだろう。カートの専用格納庫自体が数件やられている」
タイミングが良すぎないか?
ケイナが帰りたいと言った。その直後にエアポートが使えなくなった。それを繋げて考えるのは強引過ぎるのだろうか。
「『ゼロ・ダリ』には私から連絡をしてみます」
クルーレは言った。
「お願いします」
カインがそう答えるとクルーレは画面から消えた。彼が画面から消えると同時にヨクが部屋に入ってきた。後ろからティも慌てたようについてくる。
「カイン、まずいぞ。発売を宣言した新薬の原料を保管していた倉庫が2つやられた。ほかに3つ被害がある」
ヨクは手に持った紙を睨みつけながらカインのデスクに歩み寄って言った。
「被害総額は…… ざっと2億ってところだな」
カインは握り締めたこぶしを今度は額に押し付けた。
「原料は『コリュボス』からだ。追加で発注をしてもたぶん1ヶ月以上はかかるだろう」
ヨクは言った。カインはティを見た。
「ティ、各部署のメインチーフを招集してください。1時間後に会議をします」
かすかに青ざめた顔をして立っていたティはうなずくと踵を返して部屋を出ていった。
「今、開発途中のものは63件でしたよね」
カインはヨクの顔を見た。
「そうだ。開発と販売、それぞれに続行と中止の選別が必要だな。リスクを最小限に食い止めないと」
ヨクは答えた。
「会議までに資料が揃えられますか」
「今もうすでに準備している。現地に飛んでいる者がいるから1時間以内にはもう少し詳しい被害状況が分かるだろう」
カインはうなずいた。
「カートはなんて?」
ヨクは気づかうようにカインの顔を見て言った。
「今まだ状況把握するのと、既に動いている機を誘導するだけで精一杯みたいだ」
カインは答えた。
「……まあ、そうだろうな……」
ヨクはため息をついた。
カインは手を伸ばすとアシュアの通信機を呼び出した。しかし応答がない。
しばらく待っても応答がないので、カインは諦めた。アシュアが出られない状況にあることも考えられる。
出られない状況……?
一瞬浮かんだ不安をカインはかぶりを振って押しのけた。
「社長、行きますよ」
ヨクの言葉にカインは立ち上がった。