04-09 ゼロ・ダリ

「何があったんです?」
「セレス・クレイのブレスレットとケイナのネックレスです」
ブレスレットとネックレス? いったいどうして……。
「ユージーは解析をしたらブレスレットもネックレスも焼却すると言っていたはずなのに……」
カインはつぶやいて、再びクルーレに目を向けた。
「それは今どこにあるんですか?」
「保管してあります」
クルーレの返事にカインは戸惑った。渡して欲しいといって渡してくれるものだろうか。
「そちらにお渡しするのはもう少し待っていただきたい。あとで必ずお渡しします」
カインの心の中を察したようにクルーレは言った。
「今後は定期的にわたしが窓口となってリィ社長に連絡を入れます。そちらからもお願いしたい」
クルーレの言葉にカインはうなずいた。
「それと…… あなたの部下が『アライド』に行っているのなら、あなたは直接『アライド』に出向くようなことはなさらないほうがいいと思います」
カインは目を細めた。
「でも、買収計画にはリィは関与していません」
カインが言うと、クルーレは片眉を幽かに吊り上げた。
「あなたにもしものことがあると、ケイナの身請け人はさらに減ることになりますよ」
「だったら…… アシュアも……」
「彼が『ノマド』の人間だということは『ゼロ・ダリ』の誰かが知っていますか?」
「いえ…… アシュアが直接話さなければ誰も知らないと思います」
「なら大丈夫でしょう。彼らは単にリィ・カンパニーの社員だと思っているはずだ」
カインは視線を落とした。アシュアに念押ししとかないといけないかもしれない。
「彼は星間連絡用の通信機を携帯していますか?」
考え込むカインにクルーレは尋ねた。
「いえ…… 長引く滞在の予定ではなかったので……」
「なら、こちらで軍用のものを届けさせます。彼との連絡はそちらを利用されたほうがいい」
クルーレは立ち上がった。
「それでは、わたしはこれで」
カインもヨクも慌てて立ち上がった。クルーレが手を差し出したのでカインはびっくりして一瞬その手を見つめたあと、腕を伸ばして握り返した。
「リィ社長」
握手を交わしたあとクルーレはひたとカインを見つめた。
「ケイナ・カートはプロジェクトの子供であるかもしれないが、カート社長にとっては弟であり、先代のレジー・カートにとっては息子です。おふたりとも、ケイナのことを何よりも気づかっておられた。そしてあなたを信頼しています。ご協力いただきたい。お願いします」
カインはうなずいた。
「分かっています」
クルーレはそこで初めて小さな笑みを見せた。そして踵を返してドアに向かいかけ、その足をとめて再び振り返った。
「射撃の勘を取り戻したい場合は、当方の施設をご自由にお使いください。ここからならサウス・ドームの訓練場が一番近いでしょう」
彼はそう言うと部屋から出て行った。
ヨクがどさりとソファに座り込んだ。
「はあ……」
彼の大きなため息を聞きながら、カインはそのまま無言で立ち尽くしていた。