03-02 gazed at

『アライド』に行ったアシュアから連絡があったのは翌日の午後だった。
「目は覚めてないんだけど…… おれ、ちょっとショックだった」
アシュアはそう言うと、画面越しに小さなディスクをかざしてみせた。
「今、ケイナの画像をそっちに転送するから」
しばらくしてカインは画面に映し出されたケイナの姿に息を呑んだ。
流れるように美しかった金髪は短く刈られ、両目は黒いガラスをはめこまれたアイマスクのようなものをつけられている。
右腕は肩から先、左足は足の付け根から先を黒い革のようなもので覆われていた。まるでぴったりとした手袋と長い足袋をつけているような感じだ。
むき出しのままの上半身はげっそりと痩せてあばら骨が浮き出ている。昔のケイナの面影がなかった。同じ昏睡状態でもセレスとは雲泥の差だ。
「右目に義眼が入れてあるんだそうだ。右腕と左足も義手義足だな。目覚めて実際に自分の体に定着するまでは覆いは外せないんだと」
アシュアの声が聞こえた。
「自分のもののように動かすのにも少し時間がかかるらしい。慣れると人工皮膚の下は機械だってことは誰も気づかないくらいになるって話だった」
カインは画面から目をそらせるとデスクに肘をついてこめかみを押さえた。なんとも言いようのない気分だった。
「そっち、どうだ? 具合は?」
いつの間にか画面がアシュアに切り替わっていた。
「ああ…… うん……」
カインは顔をあげた。
「体調はもう大丈夫。今は自分の部屋に軟禁状態だよ。ここで仕事をしている」
「ユージーは変わらないみたいだな」
「うん……」
カインはうなずいた。
「容態は安定しているみたいだけれど」
「ケイナはあと4、5日かかるみたいだし、おれ、一度そっちに戻るから。こっちも安定はしてるみたいだから心配しなくていいよ」
「アシュア」
「なに?」
声をかけるとアシュアの鳶色の目がこちらを見つめ返した。
「『ノマド』のほうは大丈夫だったのか」
「大丈夫って?」
「リアや…… 子供たちと離れることになるし……」
ああ、という顔をして、アシュアは笑みを見せた。
「喜んで見送ってくれたよ。そりゃ、並みの心配くらいはしたと思うけど。でもさ……」
アシュアはかすかに照れくさそうな顔をした。
「おれもリアもおまえの力になれるってこと誇りに思うし、そうしたいって願ってるよ」
カインは目を伏せた。
「そうか。ごめんな。ありがとう」
「おまえらしくない返事」
アシュアはそう言うと笑った。そして何かを思い出したような顔になった。
「あ、それでな、明日帰る前にクレイ夫妻に会おうかと思ってるんだ」
「え?」
カインは目を細めた。
「クレイ夫妻って……」
「ん。セレスの両親……」
急なことにカインは言葉を失って画面のアシュアを見た。
セレスの養父母はカート司令官が兄のハルドと共に『アライド』に逃亡させた。
ハルドは5年前に亡くなったが、『アライド』に埋葬されたので夫妻はそのままアライドに住んでいる。
アシュアは首のうしろを手で撫でた。
「クレイ指揮官とはあんまり面識なかったけど、せっかくこっちに来たから墓参りくらいしとこうかなと思って。あと、クレイさんもセレスの様子を知りたいだろうし……」
「そうか……」
カインはつぶやいた。
「ぼくも一度行かないといけないはずなのに……」
「そのあたりは分かってくれているよ。じゃ、明日の夜にはそっちに行くから。また詳しい話は戻ったときにな」
アシュアは片手をあげると画面から消えた。
消えた画面を見つめ続けてカインは妙に不安な気持ちに陥った。
ケイナの姿を見たからだけではない。頭の中の遠くのほうに、ちらりちらりと小さな炎のようなイメージが浮かぶ。それはいいイメージではなかった。
でも、何を表しているのかも分からなかった。