01-9 予感

 襟も袖もない白い服を着て横たわっていたセレスのむき出しの腕と足が痛々しいほど細い。
それでも少年とも少女ともつかなかった体型が丸みを帯びている。もう今は少女としか見えない。
かすかに隆起を感じさせる胸が規則正しく呼吸のための上下運動を繰り返し、トレードマークだった緑色の髪は艶を失うことなく腰のあたりまで伸びていた。
「大丈夫ですか?」
凍りついたように立ちすくむカインとアシュアにドアーズが声をかけた。その声にふたりは我に返った。
「テントを上げましょう」
ドアーズが少し笑ってそう言ったのでカインは驚いて彼の顔を見た。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。免疫もだいぶんつきましたからね」
ドアーズは答えると、後方の誰かに合図を送った。ほどなくしてゆっくりと下側から白いベールがたくしあがり、セレスの姿がはっきりと見えるようになった。
ふたりはセレスの横たわるベッドに近づいた。
「なんだか…… いい夢でも見てそうな顔だな」
アシュアがセレスの顔を覗き込んでかすかに笑ってつぶやいた。
確かにセレスは目を閉じてはいたが、ほんの少し笑っているような表情だった。
「痩せちゃったな……」
カインは彼、いや、彼女の細い足を見つめ、そしてセレスの顔に目を向けた。
「セレス…… 頑張るんだぞ。ケイナもすぐ目が覚める」
少し顔を近づけてそう言うとドアーズが何かに気がついて後方のスタッフに目をやった。
「おやおや」
彼が嬉しそうに声をあげたのでふたりは振り向いた。
「ご子息、あなたの声に彼女の脳波が反応したようですよ」
「え?」
カインは目を丸くした。
「夢の中ででも聞いているのかもしれませんね。もっと近くに行って、話してみるといい。彼女の手を握って。あなたの声や体温で彼女がさらに覚醒に近づくかもしれませんよ」
まさか、とカインは思った。どうしてぼくの声に? ケイナの声ならともかく。
アシュアの顔を見ると、やってみたら? というようにうなずいたのでカインはおずおずと細く折れそうなセレスの手をとった。
温かい…… セレスは生きている。
7年前のセレスの表情が思い出された。大きな目、屈託のない笑い顔、『ライン』での時間、逃亡の時間……
思い出すと記憶がとめどなくあふれ出た。
「セレス……」
カインはセレスの細い指を両手で握り締めた。
「セレス…… 聞こえるか? ……あのとき…… ごめんな、助けてやれなくて……」
カインの言葉を聞いてアシュアは目を伏せた。
「……今度はちゃんと守ってやるから……」
『カイン……』
頭の中でふいにセレスの声が聞こえたような気がしてカインは小さく目を見開いた。
『カイン…… ケイナに会って……』
「……ケイナに……?」
つぶやくカインの横顔をアシュアが怪訝そうに見た。
『……ほんとのケイナに会って……』
本当のケイナに会う? どういうことだ? ケイナは『アライド』だ。『アライド』に行けということなのか?
途端に目の前に閃光が走り、鋭い痛みを目に感じた。カインは思わずセレスの手を取り落として目を押さえた。
「カイン……!」
アシュアが慌てて腕を伸ばすとバランスを崩しかけたカインの体を支えた。
「どうした、大丈夫か?」
ドアーズがスタッフとなにやら会話していたがすぐに戻ってきた。
「どうしました? 彼女の脳波はいい兆候でしたよ」
「い、いえ……」
カインは瞬きを繰り返してかぶりを振った。光の残像がまだ残っている。もう何年もこんなにはっきり『見えた』ことなんかなかったのに…… これはいったい何のメッセージなんだろう。
セレスに目を向けると、光の残像の中で彼女は最初に見たときと同じ表情で眠っていた。