01-6 予感

アシュアはプラニカに乗り込んで横に座るカインのほうをちらりと見た。
「なあ、カイン」
「なに」
カインはこちらには目を向けず生返事をする。アシュアはほんの束の間言おうか言うまいか迷った
が、思い切って口を開いた。
「あのさ、おまえ、人を好きになることを怖がってないか?」
「え?」
唐突なアシュアの質問にびっくりしてカインは彼に目を向けた。
「いや…… 何となくそんな気がして」
プラニカは滑るようにパーキングを出ると、地下のハイウェイを走り出した。運転席で前を見つめながらアシュアは言葉を続けた。
「ケイナとセレスのことが気になっているのは分かるけれど、あいつらはまだまだこれからたくさんの時間が必要なんだ。その前におまえが自分のことを考えても、あいつらは別に怒ったりしないと思うぜ」
カインはその言葉を聞いてかすかに眉をひそめた。前を向いているアシュアはそれには気がつかない。
「そりゃ、もともとの原因は確かにカンパニーにあったかもしれないけど……」
「ティのことを言ってるの?」
カインはアシュアの言葉をさえぎった。声に少し怒気を含んでいる。アシュアが慌てて目を向けると、うんざりしたように小さくかぶりを振るカインの様子が映った。
「ティはいい子だよ…… 頭もいいし、秘書として優秀だ。でも、だからってそれが恋愛感情につながるかどうかは別問題だろ」
「んん、まあ、お互いの気持ちってのはあるだろうけどさ……」
アシュアは指で鼻の頭を軽く掻いて苦笑した。
「でもさ、ふたりとも傍目で見ていても悪い雰囲気じゃないんだけど」
「仕事のパートナーが険悪ムードだったらシャレにならないだろ」
カインは不機嫌そうにそう言うと、地下のハイウエイの天井で光のラインを引きながら後ろに流れていくライトに目を向けた。
「ヨクもおまえも、揃って煽るようなことばかりして…… はっきり言って迷惑なんだよ」
「迷惑なんだ?」
アシュアは思わずカインの顔を見た。
「じゃ、彼女はおまえにとってそういう対象じゃないってこと?」
「アシュア」
カインの語気が鋭くなった。
「この話題、やめないか」
ぴしゃりと言われてアシュアは口をへの字に歪めるとしかたなくうなずいた。
 カインは今年26歳になる。次世代可能クラス・トリプルプラスの規定からすれば、結婚相手を見つけるまでにあと1年ほど余裕はあるが、彼はその話題になると嫌悪感をあらわにする。
もちろんその制度は強制ではないし、仕事が忙しくてそういうことを考えたくないのかとも思ったが、アシュアにはどうもそういうわけでもないような気がしていた。
自分に流れる『アライド』の血のことや『トイ・チャイルド・プロジェクト』のことがカインにはまだ心にひっかかっているのかもしれない。
『アライド』と地球とのクォーター世代よりさらに地球人の血に近いカインだったが、クォーター世代の40歳を超えてからの異常な速さの老いのことはカインも知っているはずだ。
もし、その資質が残っていたならば、カインも普通の地球人よりもかなりの速さで老いていくかもしれない。
もちろんそれはその時になってみなければ分からない。自分がもし子孫を残せばその子もどうなるかは分からない。
カインはそのことに怯えているのではないだろうか。
アシュアは時々そう思う。
横目でちらりとカインを見ると、彼はむっつりとした表情で前を見つめていた。
窓に肘を当てて、親指で顎を支えている。
そういう癖は昔から変わらない。何かを考え込んでいるときはいつもこのポーズだ。