01-3 予感

 7年前、ケイナとセレス、そしてユージー・カートとセレスの兄のハルドは『トイ・チャイルド・プロジェクト』を破壊するために氷に閉ざされたグリーンランドに入った。
地下の無人の研究所に眠る数々のプロジェクトの痕跡と被験体として眠り続けていた『グリーン・アイズ・ケイナ』を葬るために。
そして『トイ・チャイルド・プロジェクト』は崩壊した。
『グリーン・アイズ・ケイナ』も死んだ。
 あのときのことを思い出すと、カインは今でも体中が緊張でこわばるような気がする。
カインは遠く離れた地からモニター越しに必死になって『グリーン・アイズ・ケイナ』に声をかけ続けた。でも、助けられなかった。
兆候が出てから1時間にも満たないわずかな時間で大規模な地震がグリーンランドを襲い、ユージーとハルドは脱出したがケイナとセレスはそのまま地下に取り残された。
残されたふたりの無事を願っていたのはユージーだった。
彼らを助けるために動いたのもユージーだ。
 あの地震のあと、すでにカインのいるカンパニーには実動力が残っていなかったということもあったが、もしかしたら自分は諦めきれないようでいて、とっくの昔に諦めてしまっていたのではないかとカインは時々自己嫌悪に陥ることがある。
 ユージーは時間をかけて氷の下を掘り起こし、そして仮死状態だったふたりを見つけた。
氷の部屋から救出されたケイナの状態はひどかった。彼はそもそも負傷をしていたし、セレスよりも早く仮死状態に陥った。その時間差は6時間だったという。
つまり、ケイナが動かなくなってから、セレスはあの凍える部屋に6時間もケイナを抱いて堪えていたことになる。
いったいどれほどの孤独と絶望を味わっただろう。
 白く凍えたふたりを見つけたとき、少し離れた場所に黒く小さくなった『グリーン・アイズ・ケイナ』の亡骸があった。
彼女の体に流れた電流は少しずつ彼女の体を焦がしていった。セレスが6時間もったのは、もしかしたらそのわずかな熱のせいだったのかもしれない。
 助け出されてからふたりとも『アライド』に送られた。
気の遠くなるような時間をかけて、ゆっくりとゆっくりと覚醒に導かれている。
遺伝子治療を行いながら、無理な冷凍仮死状態でただれてしまった皮膚や粘膜の治療を行った。
ケイナはかなり損傷がひどかったが、セレスは約1年半で治療も終わり、目覚めるのもケイナよりはるかに早い可能性があるということで地球に戻された。
『アライド』に残ったケイナはユージーが、セレスは地球の『ホライズン研究所』カインがそれぞれ治療責任を負い、お互いに1ヶ月から3ヶ月くらいのスパンで情報交換をしていたのだ。
 先に連絡を寄越すのはたいがいユージーのほうだった。彼は一見近寄りがたい雰囲気もあるが、実際はかなり几帳面で面倒見のいい性格の持ち主だ。
『ライン』の講師をときどき依頼されるのはそのせいもある。
彼が短期間でも講師を務めたときのライン生は、彼が来る前と後とでは成果が全く違うとカインは風の便りに聞いたことがある。
しかし、そのユージーとここ半年ほどカインは会話ができていなかった。
もともとお互いが大きな組織を担っているので会うことは滅多にない。簡単なメッセージのやりとりを残す形での情報交換だったが、彼からのメッセージは半年間ぷっつりと途絶えている。
カインが送った二回目のメッセージにユージーからの返答がなかったとき、さすがに不審に思えて直接ユージーのオフィスに連絡をした。
しかしユージーは『アライド』に発ったあとで、その後は『コリュボス』で講師の任につくことになっていた。
三回目のメッセージを残して彼からの連絡を待っていたが、その間にセレスが治療を受けている『ホライズン』から「覚醒の兆しがある」と連絡が入ったのだった。