01-11 予感

 トリはアシュアの身代わりとなって亡くなったと聞いた。
アシュアがそのことを口にしたのはもうずいぶん前に一度きりだ。アシュアの気持ちを考えてカインもそれ以上に詳しくは聞いていない。
「子供たちは元気?」
カインはアシュアに目を向けた。目の充血が少しとれたようだ。
子供の話題になってアシュアは嬉しそうに笑顔を見せた。
「ああ、元気、元気。もうすぐ7歳になるからなあ。もっと小さい時は、なんか、トリとリアのミニチュア見ているみたいな気がしたけど、今はそうでもないよ。ダイは完璧おれ似だね。あいつは将来大物になる」
カインは思わずくすりと笑った。
「双子だろ? ダイがおまえ似なら、ブランもおまえ似ってことになっちまう」
「いや、ブランはリアに似てるよ。あの負けん気の強さは間違いないね」
アシュアは思い切り顔をしかめてみせた。
「子供たちには…… やっぱり予見の力があるのか?」
ためらいがちにカインが尋ねると、アシュアは小首をかしげた。
「さあ…… どうかなあ。それらしき様子は今までなかったよ。夢見たちはブランにその力を強く感じるって言っていたけど、昔聞いていたトリの幼い頃のようなこともないし…… でも……」
アシュアが言いよどんだので、カインは怪訝そうにアシュアを見た。アシュアはそれに気づいて何でもない、というように笑みを見せた。
「たいしたことじゃないんだよ。ブランは光るものが嫌いなんだ」
「光るもの?」
カインは目を細めた。
「うん。なんつうか、光を反射してぴかっとするやつっていうのかな。金属とか、ガラスみたいなものとか。だから『ノマド』の人間がよく身につけている石の装飾品なんかも嫌いなんだよ。木の実や草の実を乾燥させて、自分でそれで首飾りを作ってた。なんかちょっと不恰好なやつだったけ
どな」
「ふうん……」
光るものが嫌い…… カインはさっき目の前に起こった閃光を思い出した。
何を意味するのだろう、あの光は。
カインの『見える』力はよほどのことがない限り、具体的な形で出現することはない。抽象的な言葉だったり、光だったり、色だったりと、それらから今後起こる「何か」を判断することはあまりにも難しいことだった。
『ノマド』の夢見たちはもっと具体的に『見る』のだろうか。リアの兄のトリや夢見たちならセレ
スからのメッセージの意味が分かったのだろうか。
「女の子はいろいろ難しいよ。ダイはおっとりしてるんだけど、ブランはいろいろ口やかましくてさ。昔のリア見てるみたいでうるさくってしようがねえ」
アシュアはまだ有頂天になってしゃべっている。
アシュアはもう完全に親の立場なんだな。
カインは心の中でつぶやいた。アシュアがこんなに子煩悩だなんて、昔は想像もしなかった。
彼を自分の下で働かせるなんて、やっぱりできない。アシュアを命の危険にさらすなんてできない。
ハイウェイの先にエアポートの建物が見えてきたのを見つめながらカインは思った。