24-8 タイムリミット

「ケイナ!!」
剣を振り下ろしたとき、ケイナは凍りついた。
ユージーと自分の間に立ちはだかり、思いきり振り降ろした刃を自分の剣で受けるセレスの姿が目に飛び込んできた。
「セレス……」
ケイナはセレスの顔を見て混乱した。彼の右のこめかみから顎にかけて大きな傷がついていた。
「ケイナ、ユージーを傷つけちゃだめだ!」
顔の右側を血で染めながらセレスは怒鳴った。
「大切だと思えばこそ! あんたがそう言ったんだ!!」
そのときセレスの背後にいたユージーがにやりと笑って銃を構えるのをケイナは見た。
頭の中で何かがはじけた。
「やめろ!!!!」
ケイナが叫んだ途端、3人はあっという間に散り散りになって弾け飛んだ。
森の中に静寂が訪れた。

 しばらくしてセレスは身を起こした。
体中が痺れたような感覚だった。特に手がひどい。ケイナの剣をもろに受けたからかもしれない。
よろめきながら立ち上がると向こうにユージーが倒れているのが見えた。ようようの思いで彼に近づき、セレスはユージーの顔に手をあてた。
良かった。意識を失ってるだけだ……
セレスはほっとした。
「ケイナ……」
あたりを見回した。ケイナの姿がない。ケイナの顔は血まみれだった。怪我をしているのかもしれない。早く探さないと……
「セレス!!」
聞き覚えのある声がしてはっとした。
「ア…… アシュア!!」
苦労して声を張り上げるとアシュアは草むらからすぐに姿をあらわした。
「大丈夫か!」
アシュアはそう言って近づきユージーの姿に気づいてぎょっとした。
「殺したのか?」
「違う。意識を失ってるだけだ。それより、ケイナがいないんだ」
「何があったんだ」
アシュアは血の流れるセレスの顔を見て言った。
「分からない…… ケイナの剣からものすごい光が出た。おれたち弾け飛んじゃったんだ……」
アシュアは周囲に顔を巡らせた。そして何かに気づいたのか走り出した。セレスもそれに続いた。
ケイナは2人よりもはるか遠くに弾き飛ばされていたようだった。草むらの中に仰向けに倒れている彼のそばに柄だけになった剣が転がっていた。
「ケイナ!」
セレスはケイナに駆け寄り、急いで彼の体を抱き起こした。
しかし、何の反応もない。ケイナは青ざめた顔で固く目を閉じたままだ。
「どうしたんだ、これ…… 顔中から血が出てる」
アシュアが呆然としたようにケイナの顔を見て言った。
「分からない…… 傷なんかどこにもないよ」
セレスはケイナの頭を手で探ったが、何も見つけられなかった。
「とにかく応援を呼んでくる。ここで待ってろ」
アシュアはそう言うと立ち上がった。セレスはうなずいた。

「相当長い間森をさまよっていたんだろうね…… あと数日さまよっていたら命の危険もあったかもしれない」
トリはセレスとアシュアに言った。
「それにしてもよく磁場を超えて来たものだ……」
目を閉じてぐったりとしているユージーは死人のように顔色が青い。いったいどれくらい森の中にいたんだろう。
もっと早く思い出していればこんなことにはならなかったかもしれない……
そう思うとセレスもアシュアも悔しかった。
「ケイナは『ライン』を出たときに自分を殺せとにユージーに暗示をかけていたんだ。あいつへの暗示が残っていたことをおれたちはすっかり忘れていた。もう、解けていると思うか?」
アシュアは気づかわしげにトリに言った。
トリはうなずいた。
「たぶん、大丈夫だと思う…… 彼には負のイメージが見えないから ……でも、数日眠ったままになるかもしれない。気がついたときには自分が何をしていたのかも全く覚えていないと思うよ。必要な処置をしたら彼は森の外れに送って行こう」
「ほんとうに大丈夫?」
セレスが心配そうに言った。
「大丈夫」
トリは笑みを浮かべてみせた。
セレスはそれを見て安心したような表情になった。顔に貼られたガーゼが痛々しい。
「きみの傷もアシュアの傷も、明日は促進機にかけてあげますから」
トリは言った。
「こんなのたいしたことじゃないよ。リールの爪がちょっと掠っただけだし、ほっといてもすぐに治るさ。それより、ケイナは?」
セレスの言葉にトリはかすかに顔を曇らせた。
「彼もすぐに目を覚ますと思うけれど……」
「なに?」
セレスは目を細めた。アシュアもトリの反応にただならぬ気配を感じて険しい顔になった。
「こんなに早く来るとは思わなかった…… 相当冷静さを欠いていたんじゃないかな」
「どういうこと……」
見る間にセレスの顔が曇った。大きな目に不安が宿る。
「彼は自分で話すと言っていたけれど…… どうやらそういうわけにもいかない…… 心を落ち着けて聞いてもらえるかな? アシュアも一緒に」
トリはセレスとアシュアを交互に見て言った。ふたりは顔を見合わせてうなずいた。
トリは静かにケイナに伝えたと同じことをふたりに話して聞かせた。
セレスの顔からあっという間に血の気が引いた。
「ケイナは…… 死ぬの?」
「死なせないよ」
トリはきっぱりと言った。
「ケイナもきみも必ず助けます。それよりも……」
トリはセレスを見つめた。
「きみは決心しなければならない。男であることは捨てたほうがいい」
「…………」
足から力が抜けた。ふらりとよろめいたセレスをアシュアが慌てて支えた。
あまりにも突然過ぎた。
「どうしても今のままがいいというなら、そういう治療法もないわけではないと思う。きみの場合はケイナよりは時間がある。でも、成功するかどうかは分かりません」
「ち……」
セレスはアシュアにしがみつきながら言った。
「ちょっと…… 時間を…… くれよ。考えさせて……」
セレスはようようの思いで答えた。
「おれのこと、あとでもいいよ…… ケイナを助けて。おれたち、もう…… トリに頼るしかないんだ」
「分かってるよ」
トリはうなずいた。