23-3 一個分の命

 セレスとケイナが血液を採取して2日後、剣ができあがってきたとリアが3人を呼びに来た。
見せられたものを見て3人は目を丸くした。
「なんだよ、これ…… 柄しかねえじゃないか……」
アシュアの言うとおりだった。ケースに収められていたのは剣の柄だけだった。
「刃はその剣を持つ者にしか見えません。持ってみれば分かりますよ」
トリの言葉にケイナはひとつ柄を取り出して持った。
重い。これは柄だけの重さではない。
やがて鋭い刃があることが分かった。見えているというより頭の中で認識している、という感じだ。柄の部分から頭の中で徐々に形づくられていく。
「長過ぎるし、重い……」
ケイナはつぶやいた。
「それはアシュアのです」
トリは笑って言った。
「きみのはこちら」
トリはそう言って別の柄を取り上げた。ケイナから剣を受け取ったアシュアはどうなっているのか全く合点がいかないようで、剣をまじまじと見つめていた。自分の刃は分かるが、横のケイナを見てもその先には何も見えない。見えないということは、戦うときも相手には見えない。刃の見えない剣は脅威だろう。
「こんなの見たことないよ。これ、地球のものじゃないよね……」
セレスは柄に彫り込まれた複雑な文様を見て言った。
「それはノーコメント。昨日こういうのが得意な者が君たち用に調整したんです」
トリは笑みを浮かべたまま言った。
「ノマドは武器をストックしとかねえんじゃないのか? こんなもん、どうして 1日や2日で手に入る?」
アシュアは目を細めた。
「武器じゃありません。研究用です」
トリは平然として答えた。
どうだか、と思ったがアシュアは肩をすくめただけで何も言わなかった。
「兄さん、私も欲しいわ……」
羨ましそうに見つめていたリアがねだるようにトリに言ったが、トリは首を振った。
「リアはだめだよ。きみには今腰に吊っている以上の武器は必要ない」
リアは不満そうに口をへの字に歪めた。
「これ… ほんとにすごい……」
セレスは剣を見つめてつぶやいた。
「ずっと前から持ってたみたいに手になじむ」
ケイナがふとセレスに目を向けた。セレスの声に何かを感じとったような表情だった。
「刃の威力はきみたちそれぞれの意思と生体エネルギーでコントロールされます。相手を殺したくなければ刃は対象物を切らないし、逆を思えば相応の殺傷力を発揮します。きれいな殺し方をしませんから使い方にはお気をつけて」
トリは言った。
「およそ、あんたの口から出るような言葉じゃねえな」
アシュアが首を振った。トリは笑った。
「事実ですから」
セレスは剣をじっと見つめていた。
そういえば今までは銃ばかりで接近戦用の武器は短剣程度のものだった。こんなに長い剣を持ったのは初めてだ。
なんだろう…… まるで体中の血が逆流するような高揚感。何か切ってみたい……
そう思ったとたん、次に起こったことをセレス自身はすぐには理解できなかった。
気がついたらケイナに剣をはねとばされ、頬を思い切り殴られてテントの端に吹っ飛んでいた。
そこにいたケイナ以外の全員が凍りついたように立ち尽くした。
「トリ……」
セレスに剣を向けたまま、ケイナはセレスが動いたらまだ戦闘モードに入るかのような雰囲気だ。
「セレスにはその剣を持たせちゃだめだ」
トリははっとして床に転がったセレスの剣の柄をとりあげた。
セレスはずきずきと頬が痛むのを感じながら口を手の甲で拭った。切れた口の端から流れた血がべっとりとついた。
「悪いけど、セレスにはリアと同じ剣を頼めるかな……」
ケイナはセレスを立ち上がらせてテントの外に向かいながら言った。トリはうなずいた。
「いったいどうしたっていうの……」
2人が出ていくのを見送りながらリアは兄の顔を見て言った。
「剣の持つエネルギーがセレスの血を呼び覚ますんだよ…… 失敗した。ぼくには読めなかった……」
「なんてこった……」
アシュアが呻くように言った。