21-5 日記

『毎晩飛び起きて訳のわからないことを叫び散らして森の中へ走っていく……
そのたんびに探しに行く。
ケイナ、おまえの小さな体が震えながら森の中にうずくまっているのを見つけても、ぼくには抱き締めてやることしかできない。
いったい何に怯えているのか、何がおまえを狂気に駆り立てるのか……
ケイナ、お父さんはここにいる。
ここにいると抱き締めてもおまえに声が届かないんだ……
ケイナ……
お父さんの声が聞こえないか……
以前のように笑ってくれ……』

『昨日からトリが添い寝をすると言ってきた。
自分ならケイナの悪夢を食べてやれると言うんだ。
半信半疑で言うとおりにしたら夜の奇行はなくなった。
だけど、毎日テントに篭りっきりで少しも外に出ようとしない。
目がぎらぎらして…… 以前のケイナの面影がない……
ユサがひどく怯えてる……
あんなにケイナを可愛がっていた彼女がケイナの傍に近づこうとしない。
しかたがないから…… ユードのテントでずっとリアを見るようにさせた。
ユードはしばらく長老のテントに行く。

ケイナのそばにはトリがいる。
だのに、ケイナはトリの顔を見ようともしない。
トリはずっとケイナの手を握ってる。
そしてぼくに言うんだ。
ケイナの横に緑色の目の人がいる、と……
ほうっておいたら連れて行かれると……
ぞっとした……

『エリドに相談したんだ。
エリドもケイナの様子にはずっとひっかかっていてあんまり言いたくなさそうだったけれど、話してくれた。
50年ほど前に緑色の目と緑色の髪の少年がノマドにやって来たんだそうだ。
美しい顔立ちで、頭も良く、明るく屈託ない性格で、すぐに溶け込んだと。
20歳くらいでコミュニティの女性と結婚し、女の子が生まれた。
同じ緑色の目と緑色の髪を持つ美しい子だったそうだ。
だけど、その子が7歳になったときに事件が起こった。
親のグリーン・アイズが豹変した。
しばらく飢えた獣のように目をぎらぎらさせていた。
数日後、彼はコミュニティの人間を片っ端から殺していった。
彼は小さな料理用のナイフだけしか持っていなかった。
それで逃げまどう人を容赦なく彼は切り刻み、最後の一家族が犠牲になろうというとき、彼の娘が彼の前に立ちはだかった。
…… そして彼を葬った……
娘はただひとこと、「死ね」と言ったんだそうだ。
彼は自分で自分の首を切った……』

マレークの目から涙があふれた。
彼はぽたぽたとこぼれ落ちる涙を拭おうともせず、肩を震わせていた。

『あのとき…… あの筒の中から聞こえた女性は言っていた。
……この子はこちらにいたら危険なんです、と。
そのことに早く気づいていれば良かった……
外の世界が危険なのではなく、おまえ自身が危険だったのだ……
ノマドはグリーン・アイズのことを知っていた。
言えばエリドは気づいたかもしれない。
いや、金髪碧眼のおまえとグリーン・アイズを結びつけるのは難しかっただろうか。
親を葬った娘のグリーン・アイズは行方不明になったとエリドは言った。
おまえの中にはその血が入っているんだろうか。
ぼくには分からない。
だけど、ノマドの中にはたくさん術者がいるんだ。
もっと幼い頃におまえの中の危険な人格を閉じ込めることだってできたかもしれない。
でも、もう遅い……
いや、遅くない……
ケイナ、頼むから元に戻ってくれ。
私の息子だ。
元に戻ってくれ……
戻ってくれるんなら、なんでもする』

マレークの姿が揺らいで消えた。