21-4 日記

『トリが最近浮かない顔をする。
もともとあまり表情の出ない子なんだが、ケイナを見るときに悲しそうな顔をするんだ。
ケイナのことが嫌いなのかと聞いたら、そうじゃないって言うんだ。
ケイナはいい子過ぎて、いつかそれが大変なことになりそうな気がするって……
ぼくにはよく分からなかった。
ケイナ、おまえは確かにいい子だよ。明るくてよく笑う。
小さな手でお父さん、お父さんとぼくのほっぺたを撫で回すんだ。
あの無愛想チェシャがおまえにだけはスリよっていく。おまえがしっぽを掴んでも怒らなかったな。
明日からドームの南側に移動することになった。しばらくは数カ月置きに転々とするんだそうだ。
少しずつでも緑が増えていくっていうことはぼくの夢だったし、やりがいがあるよ。
これも、おまえがぼくに与えてくれたんだなと思う……。
ケイナ、ぼくはおまえが大好きだ。
大変なことなんて…… 起こりっこない』

『ケイナが6歳になった。
ずいぶんと頭のいい子だ。びっくりしたよ。
ぼくが20歳くらいのときにやっと解いた数式を解いちまった。
親ばか……かな。天才じゃないかと思ったよ。
リアとよく剣士ごっこをしている。
彼女は昔から棒っきれを振り回していて、ときどきユサがたしなめていたけど聞く耳持たなかった。
最近はケイナと遊んでも負けてばっかりみたいだ。負けず嫌いだから顔を真っ赤にして怒っているよ。
ケイナはリアに負けないくらい動きがすばやい。
どうも見ていると、リアが怪我しないように考えて動いているみたいだ。
リアは勘が鋭いからそのことをよく分かっていて、それが余計悔しいんだと思う。
ぼくはあんまりスポーツをしたことないからよく分からないんだけど、なんだかおまえは相手の動きを最初から読んでるような顔をする。
誰が教えたわけでもないのに、受け身の方法もちゃんと知ってる。
不思議な子だな……』

『ユードが刃はついていないけれど、金属製の剣をふたりに作ってやった。
まあ……刃がないんだから大丈夫だとは思うけれど、ぼくはちょっと不安だ……
ユサも不安そうにしている。まだ子供だし…… 剣っていうのは戦うためのものだから…
困った……
ユードは悪気があるわけじゃない。だけど、あの人のやることは時々考えなしだから不安だよ。
長老のエリドは様子を見ようと言ってるからそれに従うことにする。』

ふっとマレークの姿が消えた。
次に現れたときにの姿を見てセレスたちは目を丸くした。
憔悴しきって、まるで病気のような顔色の悪さだ。
彼はあらわれるなり大きく息を吐いた。

『リアが… 高熱を出して寝込んでる。
…… もう10日になるかな…… いや、もっとかもしれない。
脳に影響あるほどじゃないし、時々意識が戻るから、大丈夫だとは思うけど…… まだ小さいから早く下げてやらないと体力がもたないんじゃないかと思う。
ずっとユサがつきそって看病してる。
ユードはただうろたえてるだけだよ……
あの人はほんとうにどうしようもない…… 
ああ…… まずいな……
こんな記録はもう誰にも見せられない……
あとで消しておかないと……』

『剣なんか…… やめておけばよかったんだ……
子供には棒っきれで充分だよ。
森の中にふたりでリールをしとめに行ったらしい。
クマの突然変異種で、夜行性なんだがけっこう気が荒い。
だけど、刺激を与えなければ人を襲うことなんかないと聞いた。
誘ったのはリアらしい。勝負をしたんだと。
自分が負けたら宝物の青い石をやる、だけど勝ったら唇にキスをしろ、とケイナに言ったんだそうだ。
森から帰ったときは錯乱状態で、聞き出すのがやっとだった。
ケイナ…… おまえは最後まで行かないと抵抗したそうだな……
当たり前だ。
刃のない剣であんなものに挑むなんて正気の人間がすることじゃない……
トリが見ていたから、教えてくれた。
慌ててエリドと腕っぷしの強いバークを連れて行ったよ。
見つけたときは、一瞬足がすくんで動けなかった。
リールは倒れていて、その上におまえは乗っていた。
リアは気が狂ったように大声で何か訳の分からないことを喚き散らしていた。
おまえの持っていた刃のない剣はべっとりと血で濡れていて、その血はおまえが嘗めたかのように、おまえの口にもついていた。
バークがリールの首根っこに剣のささった跡を見つけた。
刃のない剣が堅いリールの皮膚を突き破って致命傷になるほどの威力があるとは思えないって…… 言っていた……』

姿が消えて次に現れたマレークの姿は前よりも疲弊していた。
目は落ち窪み、げっそりと痩せている。
視線が落ち着かなげにふらふらと動いた。