18-5 海

 アルのコテージはノースタウンの小高い丘を越えたコテージ集落の一番北の端にあった。
集落といってもコテージとコテージは何ブロックも離れていて、アルのコテージは緑の林を後ろにひっそりと立っていた。セレスが言った通り誰も使っていないらしい。
「セキュリティが設置されているかもしれない。だとしたら入った途端にセンターに連絡されてしまう」
ケイナはコテージの前でつぶやいた。
「カインならすぐに破れるんだけどな……」
アシュアはため息をついた。3人は着のみ着のまま、持っているのはたった一本のナイフだけだ。
ケイナはアシュアの腕の通信機に目をやった。
「それ、ちょっと貸せ」
ケイナは言った。アシュアは眉を吊り上げたが黙って通信機を外してケイナに渡した。
ケイナは身をかがめて通信機を何やらいじくり始めた。
「何をしてるの?」
セレスが覗き込んだ。
「おれの部屋のコンピュータにアクセスしてる」
ケイナは答えた。
「『ライン』の?」
「いや、アパートだ。ほとんど使ったことがないけど、いつも立ち上げてある…… 寝室の引き出しの中に入っている小さいやつ」
「それでどうしようっての……」
セレスは一緒に覗き込みながら言った。
「ちょっと黙ってろ」
ケイナはセレスをじろりと見た。セレスは肩をすくめてアシュアを見た。アシュアも肩をすくめてみせた。
「アルの家が使っているセキュリティ会社はリィ系列だろ」
しばらくしてケイナはセレスの顔を見た。
「う、うん…… たぶん。お父さんが中央のお医者さんだし……」
セレスは答えた。
「だったら、ノースタウン・リアルセキュリティだ。アル・コンプの誕生日とか知ってるか?」
「知ってるけど……」
セレスは面くらいながら答えた。
「誕生日、個人通信用のアクセスナンバー、家の番地、なんでもいいから言ってくれ」
セレスは言われるままにひとつずつケイナに伝えた。最後にアルのエアバイクのナンバーを言ってしばらくすると、ずっと無言だったケイナの顔に笑みが浮かんだ。
「セキュリティが解除された」
彼は立ち上がって通信機をアシュアに渡した。
「どういうこと?」
セレスは不思議そうな顔をした。ケイナは笑みを浮かべた。
「絶対誰にも分からないように、って言ってても人の使うセキュリティパスなんてこんなもんさ。アルの誕生日とエアバイクのナンバーをまぜたもの。通信機とおれのコンピューターでセキュリティセンターのホストにアクセスして、ここで解除コマンドを入れたと同じことをした。リィ系列のセキュリティはボロだよ」
「なんでそんなことできるの?」
「遊びでハッカーやってたから」
セレスはあんぐりと口をあけてケイナを見た。
「冗談だよ」
ケイナはじろりとセレスを見て、すたすたとコテージに歩み寄っていった。
「こんなもんであんなことができるなんて思いもしなかった…… カインの道具がいらねえじゃないか……」
アシュアは不思議そうに自分の通信機を眺めた。
「それでも変だよ。おれが今言ったアルの情報のだけの組み合わせでも、何万何億って数のパスワードができるよ。アルのお父さんやお母さんに絡む情報ならおれは知らなかったよ」
セレスは言った。
「たまたまでもあの時間で全部送るの無理だ。 ……ケイナが自分でその中のひとつを選んだんじゃない……?」
そんなばかな、と言いかけてアシュアはその言葉を飲み込んだ。
そして背筋がぞっとした。

 コテージの中はアルの家のように清潔でぴかぴかの状態だった。
「出る時、掃除しとかないといけないみたいだな」
アシュアが自分の靴の裏を確かめながらつぶやいた。
「部屋のライトはつけるな。万が一ほかのコテージ利用者に怪しまれるとまずい」
ケイナは言った。
一階は大きなリビングとキッチン、ダイニング、客室が2つ、バスルームがある。2階にもいくつか部屋があるようだ。
アシュアはキッチンに入り、持ち手のついた非常用のライトを持ってきた。
「いくらなんでも真っ暗やみっつうわけにはいかんだろ?」
彼はそう言ってリビングのテーブルに置いた。
「夜はあっちの客室にいよう」
ケイナは奥の部屋を指差した。
「あっちなら窓が裏の林に面しているから光が漏れても人に分かる可能性が低い」
「あいよ」
アシュアは素直にそれに従い、ライトを持っていった。
リビングのすみには小さなコンピューターも通信装置も揃っていた。とりあえず外部となんらかのコンタクトを取ることは可能だ。
ケイナは通信装置に小さな赤い点が点滅しているのを見つけて近づいた。
「留守録……?」
ケイナはつぶやいた。
「なんで誰もいないコテージにメッセージが……?」
検索ディスプレイを表示させると、一時間半ほど前に録音されていることが分かった。
セレスが近づいてケイナの後ろから覗き込んだ。
「セールスかな…… 再生してみる? やばいやつだったらすぐに出ないといけなくなるし」
セレスは言った。ケイナは少し躊躇したがうなずいた。
アシュアも近づいてきた。ケイナは再生のボタンを押した。
しばらくして画面に出てきたのはアルだった。
「アル……?」
セレスはびっくりして画面を見つめた。