15-02 シナリオ

 その日もカインが仕事に区切りをつけて一息ついていると、ブランとダイがセレスの手を引いてオフィスに現れた。
ケイナの顔を見るなり、いつものようにセレスの顔に警戒心が現れる。
一緒についてきたリアが気遣わしげな視線を向けたのを感じたが、ケイナはそのまま部屋を出た。
ティのオフィスの前を通りかかると開いたままのドアの向こうでヨクとティが話している姿が見え、ヨクがケイナに気づいて声をかけてきた。
「ケイナ、こっちでコーヒーでも飲んでいかないか」
「アシュアは?」
ケイナは立ち止まると顔を巡らせて尋ねた。アシュアはヨクと一緒にいるはずだった。
「おれのプラニカの調子が悪くてな。ちょっとした電気系統の不良みたいで、これくらいなら直せるからと言うから頼むことにした」
ヨクの答えにケイナは何かひっかかるものを感じながらうなずいた。
「ケイナ、あとでカインに言うつもりなんだが2週間後のウォーター・ガイド社の打ち合せの時はきみも同行してくれないか」
「どうして?」
ケイナがかすかに怪訝な顔をするとヨクは肩をすくめた。
「あそこ、多人数でぞろぞろ行くのはどうも敬遠するみたいなんだよ。アシュアがきみとならふたりで大丈夫だからと言うし……」
クルーレは重役のひとりひとりに何人もの護衛を配置させていた。ヨクにはアシュアのほかに4人の護衛がつく。客先に直接会うところまで同行するのはアシュアだけだが、確かに客先には異様な光景に映るだろう。
「頼むよ」
顔をしかめて言うヨクの言葉にケイナはうなずいた。
「カインがそれでいいと言うなら」
ヨクはほっとしたような表情を見せた。
「プラニカはもう駐車場に?」
再びティに顔を向けようとしていたヨクは、ん? というようにケイナを見た。
「そうだよ?」
「ヨクの駐車スペースはどこ?」
「地下3階の5060だけど……」
「ちょっと行ってくる」
ケイナは踵を返した。
「ケイナ、コーヒー入れるわよ?」
「もう戻ってくると思うぞ?」
ヨクとティの声が追いかけてきたが、ケイナはそのまま駐車場に向かった。
なんだか嫌な気持ちだ。あいつはここのところ何の動きもしていない。
腕をなくしたから? でも、腕が直っていたら? バッカードとエストランドがまだ生きている間に修理されていたら?
思わず足が速くなった。
エレベーターで地下まで降り、駐車場のフロアに続く扉を開くと左右にずらりと並んだ無数の車庫が見えた。アシュアはどこだろう。
ケイナは足を踏み出した。

 アシュアはプラニカのドアを開けて運転席に上半身をもぐりこませ、何度かスイッチを入れてみた。
ちかちかと点滅するランプを見てたぶんこれならすぐに修理できるだろうと思った。
再びプラニカの外に身を出したとき背後に人の気配を感じて振り返った。
「なんだ。誰かと思った」
ケイナの姿を見てアシュアは笑みを見せ、またプラニカに身をかがめた。
「すぐに直りそうだけど、これ、たぶんそろそろ新しいのに替えないといけないような気がするんだよな」
「アシュア」
「ん?」
顔を振りむかせる前にアシュアは脇腹に感じる銃口に身を固くした。
「おまえは…… 隙だらけだな」
耳元で声が聞こえた。
「うるせえ!」
身を避けて振り向きざまにこぶしを突き出したが、あっという間によけられた。
姿勢を崩した相手が再び銃を構えるのと同時にアシュアは自分の銃を引き抜いていた。
「なんで同じ顔なのか、やっと理由が分かったような気がするぜ……」
アシュアはそう言いながら引き金を引いた。何発も撃ってあちらこちらで飛び散る火花が消えたあと、相手の姿は消えていた。
「アシュア!」
反対側から本物のケイナが走って来る姿を見てアシュアは息を吐いた。
「ケイナ、追うな!」
アシュアを追い越して相手の逃げた方向に走って行こうとするケイナにアシュアは叫んだ。
「なんでだよ!」
ケイナが険しい目を向けた。
「上に戻るほうが先だ」
アシュアはそう言うとプラニカのドアを乱暴に閉めた。