13-7 壊れた心

 カインは自己嫌悪に陥っていた。
自分はセレスとケイナをくっつけようとしているのか、引き離そうとしているのか……
自室のベッドの上に寝転び、天井を見つめた。
考えごとをするときはロウラインの宿舎のブースの中ではなく、ハイラインの棟に戻ってくる。
セレスがハイラインにあがってきて、果たして自分はケイナとセレスが今まで以上に惹き合う姿を冷静に見ていられるのか? セレスが危険にさらされたとき助けてやるつもりなのか……?
『あんたがあのきれいな男の子に心を奪われているってことは分かってたわ』
頭の中で鳴り響くのはトウの言葉だった。自分でもよく分からなかった。
ただ、一番最初にトウからケイナの映像を見せられたその時から、ケイナの目も鼻も口もすんなりと伸びた手足も、流れるような金髪も、髪をかきあげる癖も、人を真直ぐに見据えているはずなのに、焦点の合わない視線も…… すべてに心が惹き付けられたのは確かだった。
 それでも、最初は自分が惹きつけられていることを押さえていた。
カインは自分でも公言できるほど理性的な人間だったし、ケイナのそばにいることはあくまでも「任務」だということは理解しているつもりだった。
それがいつから「任務」を越えた感情を彼に持つようになっていたのだろう。
カインが自分の中の燻りつづける気持ちに気づき始めたのはセレスが現れてからだった。
最初に彼を見たとき、ケイナにあまりにも酷似した空気の波動に驚いた。一瞬、三年前のケイナがそのまま目の前に現れたのかと思ったほどだ。
ただ彼はケイナとは全くタイプが違っていた。グリーンの目と髪、そしてケイナとはおよそかけ離れたストレートな感情表現……
「あの目……」
カインはつぶやいて目頭を押さえた。
まるで人の頭の中にずかずかと入り込んで、相手を無防備な状態に陥れてしまいそうな深淵の瞳。
カインはセレスの目が怖かった。
自分で必死になって奥底に葬っている感情を、彼はいとも簡単にむき出しにしてしまいそうだった。
その緑色の瞳の少年が、自分とアシュアが数年かけて築きあげたケイナの信頼をわずか数カ月であっさりと手に入れた。
あれほどまで心に幾重にも鎧をまとっていたケイナの心をすべて自分に向かせてしまったのだ。
それに気づいた時にカインの心に芽生えた感情はカイン自身がもっとも恥とするものだった。
嫉妬だ。
どうかしている、と思った。
どうしてこんな気持ちにならなければならない?
自分は「任務」としてケイナに接したはずではなかったのか?
十八歳で眠りにつく彼が傷ひとつおわずにいられるように、守るためにそばにいるのではなかったのか?
でも、いつしかケイナが自由の身を確保できることを自分は願っていた。
あのきれいな肢体にチューブが取りつけられ、何度も注射針を差し込まれる姿を想像するだけで体が張り裂けそうだった。
でも、そうなればセレスとは二度と会えない……
ケイナはなぜセレスに関心を寄せるのだろう。
(もし、仮にだぞ、環境の変化で性が変わるというならば……)
ドクター・レイの言葉が頭に浮かんだ。
セレスは男として生きてきた。14年間、周囲の誰もが彼は男だと思っていた。
彼自身もそうだ。今でもそう思っているだろう。
何が変わった? ラインに入って彼の何が変わった?
カインはふと自分の頭に浮かんだ思いにぞっとして、がばっと身を起こした。
「ケイナに出会った……」
カインは頬を痙攣させながらつぶやいた。
ケイナに出会ったから…… セレスは女性になった?
カインはデスクの上に置いてあったドクター・レイからのデータディスクを取り上げた。
XXの遺伝子を持つ「少年」 ……セレス・クレイ。
カインはくちびるを噛み締めた。
「リィ・ホライズンに行け、ケイナ ……ぼくはいつか必ずリィの総領になって、きみをずっとそばで守ってやる。ぼくが…… きみのそばにいる」
(死人のようなきみのそばで……)
カインはディスクをしばらく見つめ、そしてそれを静かにダストボックスの中に落とした。