13-2 壊れた心

「どうしたんだ」
アシュアが目を細めた。
「なんでもない。ブーツん中に射撃訓練の時の破片が入ってたんだ。血が出てた」
アシュアとケイナは思わず顔を見合わせた。
「ちょっと見せろ」
ケイナが手を伸ばしたので、セレスはびっくりしたように足を引っ込めた。
「大丈夫だよ。たいしたことないんだ。一応医務室で消毒はしてもらったよ」
「分かってる。いいから、ブーツを見せろ」
ケイナが叱咤するように言ったので、セレスは渋々トレーニング用のブーツを脱いだ。
「底のかかとの脇、見てみな」
アシュアが横で言った。ケイナはブーツを取り上げるとひっくり返してかかとをひねった。
ブーツのかかとはぽろりと取れ、セレスは目を見開いた。
ケイナはとれたかかとをセレスにほうってよこした。
「何、これ……」
セレスは信じられないといったふうにそれを凝視した。
「なんとまあ、呆れるほど子供じみた悪戯をやってくれるぜ」
アシュアがため息まじりに言った。
「どういうこと……?」
セレスはアシュアとケイナを交互に見た。
「自分のブーツくらい気をつけてろ。足を傷めると一番辛い」
ケイナは吐き出すように言った。
「いろいろやるんだよ。あいつらは。これじゃあどっかで足を挫くな。たぶん破片かなんかも故意に入れられたんだよ」
アシュアがにいっと笑って言った。
「いったいどこで……」
セレスはつぶやいた。
「ブーツを脱いだのはどこだ」
ケイナは腕を組んだ。
「部屋と、シャワールーム……」
セレスはそう言ってケイナを疑わしそうに見上げた。
「誰がこんな細工するっていうんだよ。部屋はケイナとトニとジュディ、シャワールームだってロウライン生しか……」
セレスはそこまで言ってはっとして口をつぐんだ。
「そういうこった」
アシュアはほおづえをついた。
「そのどちらにもいる相手が一番クサイ奴なんだよ」
「ジュディが……?」
セレスは信じられないといった表情でつぶやいた。
「でも、ケイナがやられたおんなじ方法をジュディが知っているはずがない」
ケイナもアシュアも何も言わなかった。セレスはかぶりを振った。
「そんなはずない」
そうつぶやいたが、その声に自信はなかった。
「ロウライン生でできるっていったら、せいぜいこんな程度だろうけど、気をつけな」
アシュアの言葉にケイナは不機嫌そうに顔をそらせた。
「ブーツは直しておいてやるよ。あとで届けてやるからそれまでこれを履いてろ」
アシュアはそばにあった自分のスリッポンタイプの布靴をほうってよこした。
「ケイナ……」
セレスはケイナを見た。ケイナは顔をあげてセレスを見た。
「こういうことなの? あんたがここにいる間中、少しも緊張を解かないのはこういうことだから?」
ケイナは黙ってセレスを見つめた。
「こんなもん、ガキのいたずらじゃねえか。どうってことないよ」
代わりにアシュアが答えた。
「だけど、ケイナはルームリーダーになってからはことさら緊張を強いられてるんだ。自分の周りに他人がたくさんいればいるほど、神経を尖らせてなくちゃならない。そしてひとりでいる時はそれはそれで神経を尖らせてなくちゃならない」
セレスはかすかに口をぎゅっと引き結んだ。
「命がけだよ。それがおまえにできるか?」
「よせ、アシュア」
ケイナが口を挟んだ。しかしアシュアはやめなかった。
「おまえは今ケイナやおれに守られてるんだよ。だけど、ハイラインにあがったら、おまえの周りは敵だらけだぞ。ケイナに負担をかけずに自分の身を守れるのか?」
「アシュア!」
ケイナは怒鳴った。
「やってやるよ」
セレスはアシュアを見据えた。
「おれはケイナを守る。そう決心したんだ。ケイナのそばにいたいんだ。どれだけ敵がいたって怖くない」
セレスはそう答えると、アシュアの靴を取り上げてすたすたとトレーニングルームから出ていった。
「けなげだねえ」
アシュアはその後ろ姿を見送って笑って言った。
「あんだけストレートに感情表現する奴もめずらしいよ。おまえを守りたいんだと。まあ、状況がいまいち実感ないのかもしれんけど。こんな程度の悪戯じゃあなあ」
アシュアはセレスのブーツを見て苦笑した。ケイナは黙ってセレスの出ていった方向を見つめた。
『命の危険があるかもしれない』
ジェニファの言葉が頭に響いた。
(させるか。そんなこと)
ケイナは思った。