05-6 Side by side

「ぶっ殺されてえか」
スキンヘッドの少年が目だけをぎろりとケイナに向けて言った。
片腕は床に仰向けになっている赤毛の少年の肩を掴んだままだ。
「やれるもんならやれよ。おれやアシュアを刺すよりもおまえの耳を吹っ飛ばすほうが早いぜ」
「そんなことをしてみろ、おまえも反省室送りだ」
「反省室なんかこわかねえよ」
ケイナは冷ややかな笑みを浮かべた。
「言ったろ、おれのほうが速いって。おまえの耳吹っ飛ばして一ヶ月間反省室送りになるのなんか、たいしたことじゃない。自分の心配をしな」
スキンヘッドの少年は明らかに動揺していた。
こめかみのあたりがひくひくと痙攣を起こしている。
「耳は吹っ飛ばされないよ……」
セレスはつぶやいた。
「どうして」
トニはセレスを見た。
「訓練用の銃はそういうふうにできてるんだ。せいぜい火傷するくらいだ」
「なんでわかるの?」
トニは不思議そうな顔をし、セレスは肩をすくめた。兄が昔そんな事を言っていたのだ。
訓練用の銃は「点」という名前で、殺傷能力はない。
人体に発砲してもセンサーが働いてせいぜい軽い火傷を負う程度。
スキンヘッドもこんな事を知らないわけではあるまい。彼が妙にケイナの向けた銃口に緊張しているのは、おそらくケイナの殺気のせいだ。「点」を撃ったあと殺気まみれのケイナがどういう行動に出るのか彼には想像がつかないのだ。
セレスはじっとなりゆきを見守った。
スキンヘッドが歯を剥き出してケイナに飛びかかろうとしたとき、ものすごい怒鳴り声が響き渡った。
「またおまえたちか!」
声の主は体つきのがっしりした男だった。30代後半くらいの男で、教官服を着ている。
教官の中では若いほうだ。セレスは彼の顔を知っていた。
自分の筋力トレーニングと、まだ始まっていないが射撃の訓練を担当することになっている。ジェイク・ブロードという名前で、彼はいつも生徒を怒鳴り散らしていた。ブロードの訓練はほかのどの教官よりも厳しいと評判だった。いつも眉間に皺をよせ、彼が笑みを浮かべた顔を見たことがない。
「立て! 望み通り反省室に送ってやる!」
ブロードは乱暴に赤毛の少年とスキンヘッドの腕をつかんだ。そして点を持つケイナにちらりと目をやったので、黒髪の少年が慌てて言った。
「彼、撃ってません。バッガスがナイフを出したので威嚇しただけです」
「「点」は誰のだ」
ブロードは言った。
「ぼくのです。すみません。射撃室から飛んできたもので……」
黒髪の少年は答えた。ブロードはケイナから「点」をもぎとると彼に渡した。
「アシュアは3日間反省室に入れるぞ。今度やったら地球に送り返す」
ブロードはケイナに言った。ケイナはうなずいた。
ブロードは怒りまくった様子で赤毛の少年とスキンヘッドをひきずるようにして連れていってしまった。
さすがに教官の前では抵抗しないのは、ふたりともそれが除名を決定づけることだと知っているからだろう。
ケンカが終わってしまったので見物の少年たちも次々に部屋の中に戻っていった。
アルは最後にセレスにちょっと手をあげて部屋に消えた。
トニはケイナがこちらに戻ってきたのを見て大慌てで自分のブースの中に走っていったが、セレスはそのまま彼をドアのところで待った。
「どうせなら病院送りにしてやればよかったのに」
セレスは部屋に入ろうとするケイナに言った。トニが仰天してブースの陰から顔を覗かせた。ジュディも振り向いている。ケイナは立ち止まってセレスを見下ろした。
「あっちが先にナイフを出したんだ。正当防衛だよ」
「何が言いたいんだ」
ケイナの顔は不機嫌そうだ。セレスは怖じ気付いた様子を気取られないよう、つとめて冷静なそぶりをした。
「カケをしたね。教官が来なかったらどうするつもりだったの」
それを聞いてケイナはかすかに口を歪ませて笑みを浮かべた。
「勝つとわかっているカケなんかない」
「残念だな。あんたの銃の腕をまた見たかった」
その途端、ケイナの手がセレスの胸ぐらをつかんだ。
「だったら……」
ケイナはセレスに顔を寄せた。
「だったら、早くハイラインにあがってきな」
「行くよ」
セレスは自分の声がかすかに震えているのを感じた。
「絶対あんたのそばに行くよ」
「おれはあと2年しかここにいないぜ」
「覚えてるよ」
セレスはケイナの顔を睨みつけながら言った。睨み返すケイナの視線が鋭い。前と同じようにミントの香りがした。
「ほめてやるよ」
彼は手を離すとブースに戻りかけて再びセレスを振り向いた。
「おまえが見落としたカケを言っといてやるよ」
締め付けられていた喉元をさすりながらセレスはケイナを見た。
「ケンカで相手を病院送りにしたら、謹慎一ヶ月じゃなくて、除名だよ」
ケイナはそこでくくっと笑った。
「だけど、あいつにはおれを除名にする勇気なんかねえよ。おれを除名にしたら病院送りじゃなくて命がないからな」
ケイナは自分のブースからタオルを取ると、バスルームに入っていった。セレスがそれを見送って自分のブースに戻るとトニが真っ赤な顔をして飛んできた。
「どうしちゃったのさ。ケイナにあんなこと言うなんて、どうなることかと思ったよ!」
「うん……」
セレスはあいまいに答えて疲れ切ったように自分のベッドに腰をおろした。
「大丈夫?」
セレスがケイナにつかまれたところをさすっているので、トニは心配そうに言った。
相変わらずケイナの握力はものすごい。首が締まるかと思った。
「ケイナが笑ってたね・・・。ぼく、びっくりしたよ」
トニは息を吐いた。
「ぼくはてっきりきみが殴られると思った」
「自分でもびっくりしてる。なんであんなこと言ったのか分からないんだ」
セレスは答えた。
「気がついたらしゃべりかけてた」
「ケイナ・カートはここに来て、ちょっと変わったのかもしれない。前は特定の人にあんなに必要以外のことをしゃべったりしなかったよ」
「…………」
セレスはトニの言葉を聞いていなかった。心の中でケイナの言葉を反すうしていた。
『ほめてやるよ』
ケイナは覚えてた。
見学会のことを覚えていたんだ・・・。
それが無性に嬉しかった。